ARSENOPYRITE アルセノパイライト 硫砒鉄鉱 FeAsS
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砒素を含む鉱物の中で最も産出量多い鉱物で、世界各地に数多くの産地がある。銀白色の色合いで、ころっとした菱餅状の結晶とぬめり感のないざらざらとした断面が特徴。風化が進むと表面の光沢がなくなる。鉄を多く含むので、産地では錆びていることもある。結晶することの多い鉱物で、菱餅状の結晶が特徴ではあるが、産地では塊で産出することも多く、他形のような形の結晶であることも多いので注意が必要。ただし銀白色の金属鉱物で大量に産出するものは他にないので、そのようなものがフィールドであれば、基本的に硫砒鉄鉱(アルセノパイライト)であると思っても良い。ぬめっとした断口である場合は磁硫鉄鉱である可能性が高い。 硫砒鉄鉱(アルセノパイライト)との出会いは、愛知県稲目鉱山である。益富地学会館の愛知県展示引き出しの中に稲目鉱山の小さな硫砒鉄鉱と黄鉄鉱の結晶が丸箱に入れて収められており、金属鉱山閉山後に生まれた私としては、いまだ現役の鉱山である(セリサイト採掘)稲目鉱山は、いつか訪れてみたい産地であった。 高校生のころに訪山する機会があり、手土産片手に鉱山長のところにお邪魔したところ、出鉱所の作業場にいくつか石が置いてあるので持ち帰っても良いとのことで、出鉱所のところで働いておられる方に様子を伺いながら、いくつか標本をいただいた。そのときは微細な水晶が結晶した石英質の石の中に5mmほどの黄鉄鉱(パイライト)が多数散りばめられたような標本をいくつかいただいて鉱山を後にした。 その後大型の硫砒鉄鉱(アルセノパイライト)結晶が産出しているという話があり再度訪れたところ、先人が持ち帰ったとのことで数は少なかったものの前回のような石英質の石に2センチまでの硫砒鉄鉱(アルセノパイライト)結晶がいくつか付いたものや握りこぶしほどの大きさ石で2センチはある結晶群の塊(半分割れている)が作業所の中にあった。それらのうち一番標本的に見栄えのする後者の石をじゃんけんで勝ち取り、今標本ケースに収まっている。 3回目の訪山時はお茶缶の中に硫砒鉄鉱(アルセノパイライト)の2センチまでの分離晶がびっしり入っており、現場の方からはいくらでも持って帰っても良いとのお言葉を得たが、遠慮して5個ほど持ち帰った。家に帰ってよく見てみるといくつか双晶しているものがあり、いまさらながら何故もっと貰わなかったのか後悔している。 現在、稲目鉱山は硫砒鉄鉱(アルセノパイライト)の産出していた珪質の部分ではなく、鉱業的に優れたセリサイト主体の鉱体を採掘しており、往年のような標本の産出を絶っている。 自分自身の採集としては、埼玉県秩父鉱山、岐阜県相戸鉱山、宮崎県乙ケ淵鉱山のものが挙げられる。 秩父鉱山の鉱脈は晶洞に冨み、閃亜鉛鉱や車骨鉱、黄鉄鉱、方鉛鉱の素晴らしい結晶群を数多く産出したが、硫砒鉄鉱(アルセノパイライト)の標本も数多く存在している。概して小型のものが多いため花形とは言いがたいが、磁硫鉄鉱結晶を交代したものなどは他産地では見られない珍品といえる。 相戸鉱山は採掘当時5センチもの大型結晶を産したことで知られる。5センチのものは無理でも、現場には1センチほどの結晶が大量に入った方解石や母岩が散らばり、往年の名産地の名残をとどめている。やや湾曲した結晶面の硫砒鉄鉱(アルセノパイライト)であるのと、大量に結晶しているためお互いの結晶どうしが干渉しあいシャープな完形結晶が得にくい点が難点である。現場は沢筋のヒル大産地で、梅雨などに行けば10匹近いヒルが体を這い上がってくるであろう。 宮崎県乙ケ淵鉱山は、灰重石の結晶を産することが有名であるが、この硫砒鉄鉱(アルセノパイライト)中に灰重石が埋没して産出することが多い。一部方解石に埋没した硫砒鉄鉱(アルセノパイライト)があり、この方解石を除去すると驚くような結晶が出ることがある。K氏のコレクションが有名である。 尾平鉱山産は特にはじかみヒから出た割り箸状の長柱状の結晶が有名であるが、鉱石として産出したものではなく、錫鉱を目的として採掘したグライゼン石英脈の晶洞部分にのみ結晶したもので、鉱石ではないため、現在ズリに見受けることができない。また晶洞部分のみの産出であるため、鉱脈が抜き取られた今では、採集は不可能である。それゆえ値打ちの高い標本と言えるかも知れない。 日本の主な硫砒鉄鉱(アルセノパイライト)産地 埼玉県大滝村秩父鉱山 岐阜県関市相戸鉱山(第一金華鉱山) 岐阜県関市金城鉱山 京都府亀岡市行者山 京都府南丹市鐘打鉱山 京都府福知山市梅谷鉱山 島根県津和野町笹ケ谷鉱山 山口県岩国市二鹿喜和田鉱山 宮崎県日之影町乙ケ淵鉱山 大分県豊後大野市尾平鉱山 大分県佐伯市木浦鉱山 |
日本の鉱物標本 英名リスト